天上の海・掌中の星

    “冒険は、でも ナイショ?”


     2


これまでにもやたらと沢山ご説明して来たように、
互いの世界へそうそう簡単に行き来出来ないのが、
陽の世界と陰の世界で。

 というのが、
  双方の世界それぞれで、生きもののありようが異なるから。

陽界とは、
日輪がまんま宙に浮かんでいるほど、あまりに生気の強き次界ゆえ、
存在は絶えず風を回す刻に削られ、風化という“滅”へと向かい続ける。
それを埋めるかのごとく、次々に生まれいづる新たな“命”があって
均衡は保たれている訳だけれども。
そんな陽の対局として、陰世界とも呼ばれる天世界は、
ともすれば精神世界のような次界であり。
陽世界では殻というのに覆われている個々の意志が、
そんなものは必要ないまま存在出来るところだが、
あまりにか弱いと、その個体の領界が曖昧になりかねずで、
うっかりしていると強い個体へ吸収されかねぬのが、難といや難。

 よって

強固な障壁があって区切られているからというよりも、
そもそもの組成が異なっている異世界なため、
紛れ込むことが出来たとしても、
世界を満たす大気に適合かなわず、
そのまま押し潰されるか蒸散するか…。

 だからこそ

殻無くしては存在出来ない陽世界の生きものは、
基本、入り込めないはずなのだけれども。
そもそもの成り立ちの祖が、
こっちの世界への関わりを濃く持つ身だったルフィは、
特に何かしらの咒で守られずとも、
行き来のみならず、此処の住人と同じ感覚で、
飛び込んで来たそのまま、駆け回ることが出来るのだとか。

 「ひゃあ〜〜、気持ちいい風だぁvv」

霧の中のような空間を進めば、大きな扉の前へと出られて、
そこを入って行っての眼前へと広がったのは、
頭の上へと広がる空と同じほど、
果ての見えないくらいに広々とした瑞々しい草原で。

 「此処って、前に来たことあんぞvv」
 「そだ。此処は南天宮だvv」

草をそよがせ、ルフィの髪をくすぐる風は、
ところどころでくすくすという軽やかな笑い声を載せてもいて、

 「また来たねって、風の精霊が笑ってるぞvv」
 「おお。俺ンこと覚えてたかvv」

嬉しそうな声へ、小さな小さな光の粒たちがぱちぱちっと弾ける。
大きめのTシャツの袖やら裾やらをハタハタと躍らせるのは、
一方向から吹いてる風のやってることじゃあないようだから、
風の精霊とやらが悪戯をしてでもいるものか。

 「此処も夏には違いないんだけどもサ、
  随分と涼しいところなんで、冬の精獣の住処にとあててもらえてるんだ。」

そか、そうだよな空とかこんな青いしな、と。
夏の特徴は残しつつも過ごしやすいとの理解を寄せての見上げた空に、

 「あれぇ?」

さっそく何か見つけたらしいルフィであり。
破邪殿や聖封さんといった大人たちに比すれば
まだまだ小さめの手を額へかざし、
明るい青の中にぽつりと見つけた存在へと目を凝らしていたが、

 「………あれってフンボルテじゃね?」
 「え?」

フンボルテってなんだっけと、
彼の側こそこちらの住人の筈なチョッパーが、
小首を傾げて見せたものの、

 《 あうっ、あおんっ!》

 「あ…さくら3号ふんぼるてぃん・マルガリータ3世だっ。」
 「そんな名前だっけか?」

むくむくの毛並みといい、
雄々しくも頼もしいながら、それが相応しいややずんぐりしたディティールといい、
陽世界では“ピレネー犬”とか“グレートピレネーズ”とか呼ばれている、
山岳救助のお手伝いもするという、真っ白い毛をした大型犬。
大型犬だからとはいえ、
広い広い大空の中、ぽちりとした点の状態で見つけられたルフィも大したもんで。
というのが、

 《 わふっ!》

 「わ〜♪ 相変わらずにデカいなお前〜〜〜vv」

ひゃっほうと全身でのアタック、
一応は高校生のルフィが、まふっと総身を埋めても有り余るという、
とんでもない大きさをした わんこだったからで。
しかもしかも、

 “凄げぇな、ルフィ〜〜vv”

初対面じゃあないからこそ名前も知ってたルフィじゃあったが、

 「お前も北国生まれなんか? ふんぼるて。」

 《 あうんっ!》

それはご機嫌よろしく返事をしている強大なピレネー犬だけれど、
実は、

 “飼い主のサンジでも、
  ちゃんとフルネームで呼ばないと返事さえしないのになぁ。”

さすがあの天巌宮で、有事の際には戦闘にも加わると言われている、
ずば抜けた膂力持つ魔犬でもあったりするため。
そこはかとなく誇り高いわんこでもあるはずが、

 「フッカフカじゃんか、ふんぼるて〜〜〜vv」

ふにゃ〜っと懐いての、既に背中へ乗っかっている異空間からの客人を、

 《 わふ、あぅんっ!》

尻尾振りまくりの上機嫌にてお迎えしているのだから、
いっそのこと、恐ろしさよとチョッパーが感じてしまっても
しょうがないというところかと。

 “でも…あれれ?”

今回のご招待は、だがだがサンジの出した案ではない。
そこを思い出したチョッパー、

 「ふ、じゃねぇや、さくら3号ふんぼるてぃん・マルガリータ、
  サンジが迎えに行けって言ったのか?」

一応はと訊いたところ、
ううんと そりゃあ大きくかぶりを振ったほどなので、
自分の意志にて飛んで来たらしくって。

 “それって……。”

北の宮から真南の天炎宮までといや、相当な距離があったのに、
ルフィの気配を察しただけで飛んで来たなんて、
何とも凄まじい話でもあって。
とはいえ、

 「……ま・いっか。」

平穏な今のところは、ふんぼるて…もとえ、
さくら3号ふんぼるてぃん・マルガリータもペット扱いの大人しいわんこ。
だったら一緒に遊ぼうよと持ちかけて、

 「うわぁあっ!」
 「ひゃあ、凄いっ!」

毛並みに掴まってねとの指示の下、
数歩ほどたかたか地を駆けたそのまま、
ふわりと宙へ浮かんだ巨体だったのへ。
凄い凄いとの嬌声上げてはしゃいでしまった、
おちびさん二人だったのだけれど。
今度こそ、くれはさんが待っている天炎宮まで、
空をまたいで向かうこととなった彼らだったのを追っかけて、

 《 しゃぎゃ〜〜〜あ♪》

 「……………え"?」
 「あ、ドラゴってやつじゃね? あれ。」

 ほら、何時だったかこっちの世界の習練場ってところに来たとき、
 大きな体で俺ら追い回してくれた……♪

そりゃあワクワクと口にしたルフィだったが、

 「ちょっと待て、それって水龍(ドラド)のことぉ?」
 「おお。あれはあん時のと同じ奴だぞvv」

やっぱり嬉しそうに口にしたルフィに引き換え、
トナカイさんの驚愕のほどは、半端なく。
確かに随分と以前に
ルフィのおねだりから修練場という特別な区域まで行ったことがあり。
間の悪いことには、幼生からひとり立ちを前にしていたらしき
大きな大きな龍と鉢合わせたことがあって。
詳細は『
風に運ばれて』というお話参照ですけれど。(こらこら)

 「な…、あん時どころの大きさじゃねぇぇ〜〜〜〜っっ!!」

ただでさえ“小さきもの”だというに、
まだ距離はあってもそれがないも同然の大きさで見てとれる相手。
こいのぼりの吹流しか、いやいや蛇踊りの龍の張りぼてか。
そっちは作り物だが、
今彼らを追ってくるのは正真正銘“生もの”の龍なのであり、

 「ひぃえぇぇ〜〜〜〜っ!」

おっかないよぉと震え上がってしまっても、
うんうん、決して間違った反応じゃあないと思うよ、チョッパー。
だっていうのに、

 「いけぇ、ふんぼるてっ! 追いつかれんなっ!」

 《 わうあんっ♪》

ふ、じゃないや、
さくら3号ふんぼるてぃん・マルガリーテにはお友達レベルの存在か、
はしゃぐルフィの雄叫びを加勢に、
鬼ごっこの始まりだとばかり、
果てしのなさそな空の只中、頼もしい四肢を掻いて駆け出しており。


  そしてそして、そんな騒動とほぼ同じ頃合いに。


  「あんの年とり山姥が〜〜〜っ!」


日本語が微妙に不自由なまま、
世界のどっかで誰かが叫んでいたような………。
(苦笑)



  残暑お見舞い申し上げます







  ◇ おまけ ◇


 「そいや、ルフィ。あの猫の友達は どしたんだ?」
 「それがな、
  ゾロが“何か立て込んでるらしいから しばらくはそっとしとけ”って。」
 「……ふ〜ん?」





   〜Fine〜  11.08.15.〜08.16.


  *取り留めのないお話ですいません。
   ウチも、お盆だってのに気づいたのが
   昨日の当日の晩だったというお呑気さ加減。
   お正月にはあれやこれやありますが、
   そういやお盆に集まるというのは、昔っからも やんなかったなぁ。
   (お墓参りとかはお彼岸にするもんで。)
   暮れや正月は休みになるけど、
   盆は交替制…という職場に就いてた親だったんで、
   特に休めなかったんでしょね。

   まだまだ暑さは続くそうで、
   皆様、どうかご自愛のほどを。

ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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